ベガスでロシア人を撃つな

【映画】ライフ・オブ・パイ

 

物語が人を生き延びさせたという、物語の物語か。

劇中で華麗な映像美とともに語られた主人公・パイとベンガル虎・リチャードパーカーの漂流譚はおそらくパイ青年がこしらえた作り話であり、孤独で過酷な漂流生活を耐えぬくための心の栄養だった。極限状態においては、人は内側からあっけなく崩壊していく。宗教や神話その他の物語は、過酷な状況からの攻撃から人の精神をガードするための緩衝材あるいは防具として機能する。

村上春樹の言うように、人は物語なしに生きていくことはできない。

パイ青年が日本からの調査員に語った「真実らしい方の」物語では、「架空らしい方の」物語でのリチャードパーカーの役をパイ青年が担っていた。劇中でリチャードパーカーは、その凶暴性によってパイ青年に生きることへの緊張感を持たせることで彼を生存させたが、事実の方ではおそらくパイ青年の内部にリチャードパーカーが住んでいたのだ。 

パイが語った2つの物語。どちらが真実でありどちらが作り話であったかは大した問題ではない。リチャードパーカーがパイ青年を生かしたこと。その凶暴な虎が実在するのであれメタフィジカルな存在なのであれ、パイの運命を変えたというその機能に意味を感じるべきなんだと思う。