ベガスでロシア人を撃つな

【映画】メランコリア

 

メランコリア [Blu-ray]

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 見た人の意見がかなり両極端に分かれる映画みたいだけど、僕としてはかなり面白かった(鬱病のリトマス紙映画とか言われてるけど)。

 まずなにより画面の美しさ。冒頭10分は3回見返した。評価してる人たちの中でも退屈と言われる第一部もあの手ぶれの感度が絶妙で気に入ったし、舞台となる城郭ホテルの深度の深い開かれた空間の感じも良い。バイオフィリックな青い芝生と青い海、青い夜空と青い惑星が織り成すフュージョン。隅から隅までどこを見ても飽きることのない流麗なスクリーンをたっぷり堪能できた。この感じどっかで観たことあるなと思ったら、アンチクライストの監督だと観終わって気付いた。冒頭と終わりのアートさが踏襲されてるなと。あと、あの冒頭10分のおかげで人と話すときにネタバレを躊躇する必要のないもいいですね。

 

 そして内容というか、テーマ。躁鬱病の花嫁が披露宴を台無しにする第一部と、惑星メランコリアが地球に衝突するまでの絶望を描く第二部。なんだこりゃ・・・と思う内容だけど、要するに「鬱病の気分ってこういうことだぞ」というテーマである。

 第一部は花嫁ジャスティンを通して鬱病のリアリズムが描かれる。気分がころころ変わり、自分が望んだ披露宴を次第に面倒なものと思い、周囲の人に当たり散らして職を失い、新郎を失う。風呂から出られず、ブーケが投げられず、ヴァージン・ナイトに乗り気になれず、なのに初対面の小物くさい若造と適当にやってしまう。姉のクレアや夫(になるはずだった)のマイケルや彼らの親族が愛想をつかすのも当然の予測不能/対処不能な感情の展開。前述したようにこの第一部は大方の人が退屈に思ったみたいだが、僕としては鬱病患者の次何を起こすか分からないカオスな感じに退屈を感じることはなかった。

 第二部は惑星メランコリアの接近につれて絶望的な気分になっていく姉クレアを通した描写。このパートをなぞるのにSF的な科学考証はまったく必要なく、要求されるのはメタファーへの想像力だ。要するにこのパートは、第一部で描かれたリアルな鬱病に対して、SFやCGという映画表現を借りて注釈を付けているのだ。鬱病の人というのは普段から惑星メランコリアが接近しつつあるような気分に囚われているのだと。社会的に正常な姉クレアが鬱状態そのものに陥っていき、普段から社会に理解されてこなかったジャスティンはそら見たことかと言わんばかりに常軌そのもの。その落ち着き、堂々と終りを迎えるさまはもはや覚醒状態といった趣きだ。実際に鬱病患者は「先に悪いことが起こると予想し、強いプレッシャーの下では他の者よりも冷静に行動する傾向がある(Wikipedia)」らしい。

 

 実際に鬱病を患うトリアー監督はこの結末をハッピー・エンドと称しているそうで、確かに彼らにとっては、わざわざ自分で自殺する必要もなく、世界の方から勝手に終りを迎えてくれるというのは理想の未来に違いない。そういう意味で、マッチョ志向の人にとっては怠惰な崩壊を切望するこの映画がたいへん気に入らないというのも一面的にはよく分かる。まあ、映画から何かの教訓を読み取るも、そういった成熟志向を拒んでフィクションの快感に浸るも観た人の自由なわけだし、どっちでもいいか。僕としては青白く光る憂鬱惑星にぐいぐい惹きつけられて、全てが片付くラストシーンに爽快感を炊きつけられたというだけでも2時間の暇つぶしにうってつけだったと思うし、またいつか再鑑賞するだろうと思った。