ベガスでロシア人を撃つな

『ヒトラーを支持したドイツ国民』の感想

 そもそも一国全体が卑劣な独裁者の言いなりになり洗脳を施されるなんて有りえないというのは感覚的に分かるのだが、しかし実際のところ、第三帝国下のドイツをオーウェルの描く平行世界の1984年的世界観から切り離してイメージしてみるのは難しい。

 それは一つには、日本もそのドイツと同時期に同様のディストピアを経験していて、その時に受けたこっぴどいダメージの後遺症が現在の自分たちの有り様に確かに影響を与えているのを無視できないからであるし、一つには、願わくばわれわれはその悪夢を押し付けられた被害者であって、それゆえに自業自得の強迫観念から免れたいという民族アイデンティティ上の逃避行が心地いいからでもある。

 当時のドイツといえば、高度な教育を受けた6000万もの人口を抱えていた世界有数の文明国だ。そんな先進国がヒトラーという悪の権化、馬鹿げた地獄の使い魔を進んで支持していたとは考えたくないわけだ。

 しかしこの本は、その出来れば見て見ぬふりしておきたい現実をしっかりと頭に叩きつけてくれる。ヒトラーが持ち前のマーケティングセンスをフル活用して国民のニーズを的確に読み取り、国民の不安を心地良く和らげ、国民の願望や私利私欲をことごとく満たしていった先に、国民にとって理想の独裁者であろうとし続けた先に、例の終末的な敗戦と未曽有のジェノサイドが待ち受けていたのだという現実を。

 

ヒトラーを支持したドイツ国民

ヒトラーを支持したドイツ国民