ベガスでロシア人を撃つな

その経営資源はBuyableか?Pricelessか? - あるいは「モノ」の過大評価について

経営資源というと、かつては 「ヒト」「モノ」「カネ」というフレームワークがお決まりだった。最近ではそれに 「情報」 「データ」 などが付け加えられるケースもある。
外部のコンサルタントなどがこのような軸で経営資源を分析するのを見たことがあると思う。何か腹落ちしない感じがしなかっただろうか?
 
産業の本質が労働集約型・資本集約型から知識集約型に移っていくにつれ、「ヒト」 「モノ」 「カネ」 のくくりはあまり意味をなさなくなった。現に、分析している当のコンサルタントですら、自らの事業に 「モノ」 「カネ」 はほとんど必要ないビジネスを営んでいる。
 
「情報」 や 「データ」 と言われても腹落ちしないし(ほんの少しの使えるかもしれないデータと、大量の使えないデータがある)、現場を見ればそれ以前の何か根本的なリソース不足、というかスキル不足だったりメンタル的な部分での劣勢があるように思える。
 
ベイン・アンド・カンパニーは、デジタル時代の経営資源について意味のある分析をするなら「時間」「才能」「意欲」の軸で切るべき、と言っている。
 
組織の希少資源である時間・人材・意欲を効率的に配分している好業績の企業は、
そうでない企業に比べて生産力指数が40%も高いことが明らかになった。
 
とりわけ、最も重要な仕事を最も優秀な「Aクラス人材」で編成したチームに
やらせているかどうかで生産性に決定的な差がつく。
 
日本語版出版を期に行った調査では、日本企業の組織生産力は
グローバル平均の約8割にとどまるという危機的な状況が浮き彫りになった。
 
そして生産力棄損の最大の理由は適切なマネジメントの欠如であることも明らかになっている。
TIME TALENT ENERGY ―組織の生産性を最大化するマネジメント

TIME TALENT ENERGY ―組織の生産性を最大化するマネジメント

 

 

 
 
この考え方を借用すると、現代の、そしてこれからのビジネスを分析する時、金で買えるもの=Buyableな経営資源か、金で買えないもの=Pricelessな経営資源かを軸に考えていったほうが、意味のある課題がすっきりして見えてくる。
 
つまり、それぞれの中身は以下のような切り口だ。
  • Buyable Recources:ヒト、モノ、カネ
  • Priceless Recources:時間、才能、意欲
 
Buyableな 「ヒト」 というのは要員とか頭数といった意味合いだ。一般的な転職市場を通じた人材採用やアウトソース業者との契約により容易に買うことが出来るヘッドカウントを指している。Pricelessな 「才能」 とはいわゆる”Aクラス人材”または飛び地の方向に異質な異才のことであり、社内に希少かつ市場調達が難しいリソースだ。「意欲」 の方はさらに希少で、金で買えないどころか、社内でもどこに湧いているか分かりづらく、捉えたと思ってもふとしたきっかけで消えてしまう、最も希少な経営資源と言える。
 
Buyableな 「カネ」 はいわゆる資本、EquityとDebtのことだ。「カネ」 を買うための金、つまり資本コストは下がり続けている。ゼロ金利の時代では、「カネ」 は昔ほど貴重な経営資源ではなくなってしまった。むしろ、Pricelessな 「時間」 とトレードオフになることが多々あり、安価に調達した 「カネ」 と 「時間」 「人材」 「意欲」 を交換するM&A(= アクハイヤリング)の事例がどんどん増えてきている。
 
これらをうまく運用した先に結果的に出てくるのが 「モノ」 であり、顧客・従業員・株主へ直接還元する価値の媒介となるリソースである。つまり、それは便利なサブスクリプション・サービスを構成するマイクロサービスやクラウドインフラの利用料だったり、快適なハーマンミラーの椅子だったり、株主価値の一部を構成する純資産であったりする。
 
だから、知識集約型ビジネスで 「モノ」 をベースに経営資源を考察することにあまり意味はない。結局の所、「才能」  「意欲」 を運用した結果のアウトプットである戦略を実行するために、あらゆるものがサービス化された市場から調達するだけの話であり、論点はいつ買うか? いつ作るか? いかに早く買い占めるか? という 「時間」 の経営資源の運用にかかわるものでしかない
 
「モノ」 の中にデータとかノウハウとかを含める人がいる。これらも、要するに金で買えるものなのか、金では買えないものなのか(「時間」 「才能」 「意欲」 を運用した先に出てくるものなのか)によって、経営上の意思決定やその実行オペレーションはまったく変わってくる。コンサルタントPowerPointの四角い 「モノ」 ボックスの隣に <顧客データ、オペレーションノウハウ、データ分析基盤> とか書くだけでは何の示唆も出てこないのはそのためである。