ベガスでロシア人を撃つな

創業者を見てベンチャー転職をハックしろ。あるいは、創業者の5つの類型について

親譲りのフォロワーで子供の頃から人の言いなりになってきた僕たちにとって、リーダーなしに自律して生きていくのは簡単ではない。ましてや自分で起業したり、何か事業やイベントを立ち上げたりすることはほとんど不可能だ。だから、ベンチャー企業で働きたいと思ったら、ついていってもいいと思える創業者かどうかを慎重に見極めることが重要だ。
 
僕自身もベンチャー企業へ転職をしたことがある。また、仕事柄、様々なタイプの経営者と接し、様々な企業の戦略とその結果を分析してきた。その過程で、世の中のファウンダーの類型が5つくらいあることが見えてきたので、解説しようと思う。
他人を変えることなんてできない(ましてや起業しようと考え、実行してしまうような人間を変えることなんて絶対にできない)ので、あなたにとって望ましいリーダーの特徴に着目して会社選びを行い、是非ともベンチャー転職を成功させてほしい。
 
なお、大企業のサラリーマン社長や、同族経営企業のぼっちゃん経営者の中には、本質的にも実態的にもフォロワーである人物が多数存在する。下記の分類は、あくまで自分がリーダーとして会社を立ち上げた創業者にまつわる特徴である点に留意してほしい。
また、設立10~15年以上経過した元ベンチャー/中小企業の創業者は、夢を諦めてモチベーションも下がっており、スケールの小さい事業を淡々と進めることに慣れているので、下記に当てはまらないケースが多い。そもそもそういった企業は、もしあなたがベンチャーに転職したいのなら、その候補としては外すべきだ。
 

①:プロダクトの可能性を信じ切っている創業者

ある製品を愛してやまず、その製品が絶対に世界を変えると信じ切っているタイプの創業者だ。イノベーターは、ほぼこのタイプの中から出てくる。会社案内に記載されているビジョンがどうあれ、実際のプロダクトを見れば一目瞭然であることがほとんどだ。日本のいわゆるベンチャーの創業者は、このタイプだと言い張っているが実際にはそうではない人が多い。確率でいうと多分6%くらいだ。
 
このタイプの創業者は、製品に関わることには極めて独善的でサイコパス的であるものの、それ以外の面、例えば家族やご近所さんに対してはとてもピースフルな態度で接する。後年に熱狂的なファンが付くのもこのタイプだ。
広義には、ミュージシャンや作家のなどのアーティスト、カルト宗教の教祖などもこのタイプかと思われる。
 
例:スティーブ・ジョブス(コンピュータは我々のものだと信じ切っていた(オタクのものではない))、ウォーレン・バフェット(バリュー投資の利回りを信じ切っていた)、イエス・キリスト(ヤギの背中に揺られながら隣人愛を信じ切っていた)
 
 

②:とにかく事業規模を拡大したい創業者

多くの経営者がここに当てはまる。日本のいわゆるベンチャーでいえば、多分20%くらい当てはまる。例えば「お客様満足と価値創造で世界をリードする」「世の中の”不”を取り除く」「インターネットを通じて世界をより良くする」といった意味を成さないビジョンがホームページに掲げられていたら、まずこのタイプの創業者がいると思って間違いない。確率で言えば99.5%以上と思ってもらって構わない。
 
このタイプの創業者は「スケールする?」「まずはやってみなよ」が口癖であり、手当たりしだいに何でも試しては放り投げるので、常に新規事業のネタを探し回っている。ロジカルに考えること、網羅的に検討すること、人とうまく付き合うことを重視する。部下には ”グリット” を求めることが多い。また、創業者ではないものの、コンサルタント投資銀行家、出世頭のサラリーマンはだいたいこのタイプの亜種だと思ってもらって問題ない(いずれ彼らの一部は②タイプの創業者になるだろう)。
 
例:大勢。やや意外な例としては、トーマス・エジソン(何でもいいから金持ちになりたいと思って発明をしていた。電気系統にこだわっていたわけではない)、マーク・ザッカーバーグ(自身では何も発明していないが、スケール目指して類稀なグリットを発揮した。エリカ・オルブライトの件は動機ではなくきっかけにすぎない)
 
 

③:事業の背後にある因果律を究めたい創業者

非常に例外的だが、成功したベンチャーの創業者に稀に観察されるタイプ。総合商社、コンサル、投資銀行出身者に多い。事業が成功しているものの、プロダクトへの愛着がどうも嘘くさい創業者がいるだろう。このタイプの創業者は、顧客や市場の構造にとどまらず、社員や出資者も含めた周囲の人間の意思決定アルゴリズムを解き明かし、場合によってはそのアルゴリズムの改変に手を出すことに熱中している。冨山和彦の言うところの「人間はインセンティブの奴隷である」というテーゼを信じ切っている。たぶん、それは実際にそうなのかもしれない。
 
このタイプの創業者は、コンシューマ向けではなくB2Bのビジネスを選ぶ傾向がある。B2B SaaS ならほぼ間違いなく③タイプの創業者だと想定するべきだ。
また、ベンチャーではないが、投資ファンドのトレーダーや成功した個人投資家にもこのタイプが散見される。
 
 

④:俺様王国を作りたい創業者

大学時代に仲間内でインカレサークルを立ち上げていたタイプの創業者だ。あるいはサークルに憧れていたぼっちも含まれる。②タイプと見せかけてこのタイプの創業者である確率は意外に高い。というか起業する人のほとんどは実際このタイプだ。だいたい75%の創業者は実はこのタイプだと想定するべきだろう。創業者と友達でない限り、僕は絶対にこのタイプの会社に入りたくないが(多くの人もそうだと思う)、おそらく、入社前に入手できる情報からはこのタイプであるか見抜くことはほとんどできないだろう。
 
このタイプの創業者は、昔からの仲間同士で起業することが多いが、それは①タイプの創業者にも広く見られる傾向であり参考にならない。また、何の先進性もなく工夫も見られない伝統的なビジネスモデルを選ぶ傾向にあるが、それは②タイプの創業者にも頻繁にあてはまる。結局のところ、何となしの小物臭を嗅ぎ分けて判断するしかないのだが、具体的な特徴を伝えることが出来ない点について申し訳なく思う。僕の研究不足・経験不足である。
 
例:大勢。世の中の創業者のほとんど。「この会社は実際のところ、ベンチャー企業ではなく中小企業ではないか?」と思える点があれば、是非疑ってみてほしい。具体的なサインとしては、SEOコンサルやリスティング運用などの労働集約ビジネスを行っている、営業が社内で力を持ちすぎている、創業者がリクルート/アクセンチュア/DeNA/楽天などの出身であることを強調しすぎている(僕の観測範囲では、これらの企業は優秀なプレイヤー/マネジャーを生み出すが、真に世の中のためになる起業家は生み出さないことが多い)、など。
 
 
 

⑤:人とうまく付き合えない/組織生活に馴染めなくて起業した創業者

意外に多い。よほど特別な才能に秀でており、売り込みをしなくても顧客が集まってくる天才/芸術家タイプの創業者でない限り、近づいてはならない。