ベガスでロシア人を撃つな

魚のいないブルーオーシャン現象

大企業の新規事業創出プロジェクトを手伝っていてよく見かけるのだが、担当者の思考法にありがちなのが、自社(または担当者個人)が出来ること・やりたいことから出発して(ほぼ無意識に)領域を決め、競合がいそうか調べてみる→競合がいない→ブルーオーシャンだ!というパターンが非常に多い。
 
僕はこれを、魚のいないブルーオーシャン現象と呼んでいる。
 
大企業の新規事業で非常に多い失敗パターンである。たいていは研究開発に近い領域の部署で生まれるか、技術や製品はあるが収益性の低い部署で生まれることが多い。事業仮説の筋の良さをクイックに検証するために3Cのフレームワークを使う場合は、顧客(市場)→競合→自社の順番で見ていくべきだ。
 
ところでブルーオーシャンと言う理論は、アイデアとネーミングに爽快感があるので非常に人気があるけれども、かなり誤解されている理論だと思われる。
ブルーオーシャンの例として挙げられる俺のフレンチやいきなりステーキなどの業態についても、調べればわかるが、参入時点ではブルーオーシャン市場だったものの、収益性が明白になるにつれて他社も参入しすぐにレッドオーシャンになってしまった。
 
僕の考えでは、ブルーオーシャン戦略が勝ち筋になる条件は、市場の独占またはリソース先制が必要なビジネスモデルであることだ。例えばネットワーク効果が働くプラットフォーム事業や、ニッチ領域の人材派遣ビジネス、特定の限られた立地を抑えることが重要なサービス業など。
価格設定と接客方法を変えただけの飲食業では、長い時間軸の中ではブルーオーシャン戦略は成立しない。
 
例えばスタートアップなどはまだ顧客がいない、つまりまだ市場が出来上がっていない領域で事業立ち上げ成功しているだろうと言う反論があるかもしれないが、彼らは潜在的な顧客の需要を見抜き事業化しているのであって、顧客を見ていない大企業の新規事業とは全く違う。
 
ティージョブズは顧客の意見を聞かなかったが、それは顧客を無視して自分のやりたいことだけやっていたのではなく、顧客が気づいていない潜在的なニーズに常にフォーカスがあった。そして自社のリソースを所与のものとせず、自らの要求についていけないスタッフを容赦なくクビにしまくったのである。