魚のいないブルーオーシャン現象
大企業の新規事業創出プロジェクトを手伝っていてよく見かけるのだが、担当者の思考法にありがちなのが、自社(または担当者個人)が出来ること・やりたいことから出発して(ほぼ無意識に)領域を決め、競合がいそうか調べてみる→競合がいない→ブルーオーシャンだ!というパターンが非常に多い。
僕はこれを、魚のいないブルーオーシャン現象と呼んでいる。
大企業の新規事業で非常に多い失敗パターンである。たいていは研究開発に近い領域の部署で生まれるか、技術や製品はあるが収益性の低い部署で生まれることが多い。事業仮説の筋の良さをクイックに検証するために3Cのフレームワークを使う場合は、顧客(市場)→競合→自社の順番で見ていくべきだ。
ブルーオーシャンの例として挙げられる俺のフレンチやいきなりステーキなどの業態についても、調べればわかるが、参入時点ではブルーオーシャン市場だったものの、収益性が明白になるにつれて他社も参入しすぐにレッドオーシャンになってしまった。
僕の考えでは、ブルーオーシャン戦略が勝ち筋になる条件は、市場の独占またはリソース先制が必要なビジネスモデルであることだ。例えばネットワーク効果が働くプラットフォーム事業や、ニッチ領域の人材派遣ビジネス、特定の限られた立地を抑えることが重要なサービス業など。
価格設定と接客方法を変えただけの飲食業では、長い時間軸の中ではブルーオーシャン戦略は成立しない。
例えばスタートアップなどはまだ顧客がいない、つまりまだ市場が出来上がっていない領域で事業立ち上げ成功しているだろうと言う反論があるかもしれないが、彼らは潜在的な顧客の需要を見抜き事業化しているのであって、顧客を見ていない大企業の新規事業とは全く違う。
コンサルの仕事の仕方(最初の1ヶ月編)
20代中盤にコンサルファームに中途入社してから最初の1ヶ月に上司に言われたこと、学んだことのメモ。
一緒に仕事する若手にも同じことを伝えている。コンサルトして見習いレベル(球拾い)からプレイヤーレベル(二軍選手)に移行するための判定基準、もしくはホワイトカラーの基本所作と言えるものだと思う。
■基本的な考え方
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上司を楽にすることが部下に求められる動き方。上司が全く手を動かさない、口を開かない、パソコンを立ち上げすらしない状態があるべき姿。上司のやることをなくせば、あなたが上司に昇進する。
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楽をしない。上司・お客さんより努力する。
- 仕事が終わった後に何も考えられないくらい頭が疲れていなかったら、その日は考えることをサボった証拠。
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コンサルが30分座っていたら、何かしらのアウトプットを出さなければならない
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考えることは書くことである。どんなことでも手を動かし、紙に落とす。手を動かすことで/紙に落とすことで、何がわからないか/足りないか、何をすべきかが見えてくる。
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初めての顧客、初めての上司と仕事するときは、最初の2週間はプライベートなしで頑張って信頼の貯金を作る。信頼の貯金があれば、細かいチェックが入らなくなるし、労働時間もセーブできるし、何よりプロジェクトが炎上しない。
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まずはコンサルタントの価値観と手の動かし方を身につける。上司や先輩を徹底的に観察して、何も考えず、まずは一挙手一投足を完コピしてみるとよい。
■仕事の受け方
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仕事を受けたらまず最初にすべきことは、Dueの確認と、アウトプットイメージの確認。
- 「いつまでに」「どうやって」を決めるのは上司の仕事だが、上司はあなたが自分の代わりに考えて決めてくれることを期待している。
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特にアウトプットイメージは、依頼者の頭のなかで描いているものと、実際言葉に出てくるものが異なることが多いので必ず確認する。(たとえ優秀な人であってもそうだと想定するべき。単純作業でないタスクの依頼に対し「承知しました」の一言で返す人は仕事ができない人、とみんな知っている。)
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アウトプットイメージの確認のために、Quick&Dirty でラピッド・プロトタイピングする。できれば仕事を受けたその場で、ノートやホワイトボードを使ってすり合わせをするのがベスト。
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たとえあなたが優秀であっても、最終OKまでに最低3回は修正が発生すると思ったほうがよい。
■作業の仕方
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どんな作業も仮説から入る。仮説とは、「仮にこうだとしたら、これこれはどうなるか?次は何をすべきか?」という考え方。
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スライドを作ったら、必ずその1枚から示唆出しを行う。「示唆」とは、ファクトに基づき、ファクトを収集・分析した自分だからこそ言えること。
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よいアウトプットが生まれないときは、プロセス(論理構成)ではなくインプットを疑う(ガーベッジイン・ガーベッジアウト)
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資料を作ったら、説明に困る部分がないか自己確認する
■報告の仕方
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一度自分なりに作りきり、見直し、もっと良くする方法を15分考えて、思いつかなければ提出する
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作業期限(or論理的に判明する納期)に対して、早く提出しすぎない。(早すぎる提出は必要な品質に届いていない証拠なので、上司のフォロー負荷が増える)
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とにかく一言で言い切る。「仮にこうだとしたら」という前提でポジションを取る。コンサルタントが口に出す言葉はスタンスを張ったものでなければならない。
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自分の成果物や発言の全てに理由を説明できるようにする。説明できないものは作らない・言わない。具体的には、「具体的には?」と聞かれて「これと、これと、これです」と内訳を答えられればよい。
最近注目しているA社の成功要因である企業文化戦略に関する雑感
この会社の成功要因は明らかに人材、および人材を獲得し、維持する仕組みである。単に優秀な人を集めると言うだけでなく、彼らのポテンシャル発揮を阻害する要因を最大限なくし、他の会社にいるよりもより早く成長し、人がイノベーションを起こす。いうなれば、すぐれて属人的な会社だ。優秀な人材が持つポテンシャルを思うがままに発揮させる属人性の高い競争優位性を、組織的に作り出している。
会社は通常、3つの市場で戦っている。一つは商品市場。二つ目は資本市場。そして3つめは労働市場だ。この会社は、まず労働市場で圧倒的な競争優位を持っている。同水準の企業との人材獲得競争に完全に勝利している。そこで集めた優秀な人材が、商品市場で勝てるビジネスをやっている。結果、資本市場でも勝利し、IPOや一部事業のカーブアウトにより社長を始めとしたメンバーの皆が巨額の資産を得、別の会社を作ったり、社会貢献したり、芸術などのすぐには食えない夢に挑戦したり、幸せなリタイア生活を送ったりしている。
この会社で最大限のパフォーマンスを発揮する優秀な人材は、優れたプロダクトを開発し、効果的なマーケティング/セールスで考えうる全てのセグメントにリーチしている。まだニーズに気づいていなかったセグメントにまでプロダクトのメリットを訴求し、世の中に高い付加価値を提供している。最高の状態で仕事する優秀な人材に支えられた会社の事業部門は、高い収益性と成長性を誇り、それらは投資家に夢と現実的な株式売却益を提供している。資本の流動性を高め、高潔な投資家がより社会を豊かにする事業に投資するためのストックを提供し、資本市場を通じても世の中を豊かにしている。
この会社が初期の頃に採用した人材は、まずは高学歴層が中心だっただろう。最低限、特筆すべき学習能力と思考力を持った人たちを採用していったことだろう。このフェーズで直面する労働市場で相対的に勝つには、高いポテンシャルを持つが今いる会社の社風や企業文化、人間関係や人事制度によって潜在能力以下の仕事しかできていない人たちが採用対象になる。新卒採用はよほど会社に体力がつくまではやらなかったようだ。20代のハイスペック(だがつまらない大企業や見る目のない人事、脳筋のバカ上司にスポイルされている)な中途人材(第二新卒を含む)が理想的だが、メンターがいないと彼らが成長できないので、なるべく根無し草体質の、専門性を持った30代~40代の人材も採用したようだ(比率は2:1くらいだろう)。人材中心の企業文化をブランディングし、主に企業ページと紹介ベースでカネを使わずに採用を進めたようだ。3年で30人規模まで到達した。すでに独立系VCや大手事業会社のみならず、米国を拠点とする大手PEからも資金調達を実施していたようだ。
今の居場所で報われない優秀な人材のポテンシャルを最大限引き出すために、この会社は従業員の働きやすさには最大限の配慮をしている。まさに従業員へのおもてなしと言えるレベルでの配慮だ。おそらく、この会社の社長の仕事は、営業2割、採用3割、組織開発5割といった振り分けになっているだろう。
従業員の働きやすさを構築するために、GoogleのReWorkと呼ばれるコンテンツを活用したようだ。これは、Google社内で「プロジェクト・アリストテレス」と呼ばれた、チームの生産性向上に関する研究が元になっている。Googleのようなずば抜けて優れた人材ばかりの会社でもチーム間で生産性にばらつきがあるそうだが、その主要なファクターとなっていたのは「心理的安全性」だ。何をしても心理的に追い詰められストレスを感じることなく仕事をすることが出来るような環境。つまり、この会社では従業員は快適に仕事をすることが出来るが、それは人に怒られることがないということではない。むしろ、心理的安全が確保されているからこそ、遠慮なく失敗して怒られまくるし、その結果、従業員は他の場所よりも速い速度で成長することが出来る。
まずは「心理的安全性」が重要だ。おそらく、これを実現するためには、まず第一に社長の振る舞いが最重要項目だったようだが、それと同じくらい、マネジャー陣の教育も重点的に取り組んだようだ。具体的なケース練習のレベルで、週に3時間~5時間ほど、部下にとって心理的に安全な環境を作るためのマネジャー陣への研修が行われるだろう。
心理的安全が完全に達成された後に目指したのは、仕事のゴールおよび従業員の役割とタスクの明確化だったようだ。これもReWorkを踏襲している。心理的安全性が確保されたフィールドで、明確なゴールに向かって明確なステップを踏めれば、高学歴人材はまず確実に高い成果を出すはずだ。このフェーズでは、メンバーレベルの従業員へのタスク化の研修が頻繁に行われるようになっただろう。
心理的安全性は、経営陣の振る舞い(メタ・メッセージ)と訓練されたマネジャーたちのマネジメントスキルに加えて、評価制度によっても実現されているようだ。評価制度は、360度評価と貢献に応じた給与体系で構成されている。この会社の特徴的な人事制度は、四半期ごとに行われる360度評価とそれに連動する給与の頻繁な変更が主軸になっている。優れた成果を出すための最大の要素は熱意やパッションと呼ばれる、まあいってしまえば「はまってる」状態で仕事をすることであるのは周知の事実だが、それはたとえ優秀で仕事熱心な人材であっても、何のサポートもなく1年365日持ち続けられるものではない、というのがこの会社の考えだ。したがって、各々の従業員がどの程度の熱量で/どの程度の時間を仕事に費やすかは、もちろん会社から最大限のサポートや促しはするが、基本的には各自の自由意志に委任している。つまり、今月は疲れてるから定時退社で、とか、子供が生まれて妻が時短勤務だからそれに併せて自分も時短勤務する、とか、ちょっと人生に迷ってるから勤務時間は抑えめで、とか、そういった仕事面でのダウンサイドを許容している。許容する代わりに給与は下げる。ただし、それがその人の恒久的な評価としてフィックスされないように、四半期といった短期でドラスティックに給与を変動させる仕組みになっている(経理上の制約がなければ、毎月変動するのでも構わないとこの会社の社長は考えているようだ)。実際、かつては仕事にやる気がなくてたいした成果が出せなかったけど、今は熱中してきてずば抜けた成果が出せるようになった、という従業員も相当数いるようだ。それこそが、優秀な人材から最大限のパフォーマンスを引き出す仕掛けとなっている。
心理的安全性に基づいた従業員の働きやすさをKGIとするからには、具体的なKPIも設定されているだろう。この会社はおそらくIT関係の事業から開始したはずだが、まずはプロフィットセンターであるエンジニアとセールスの仕事のしやすさの実現を最優先に取り組んだようだ。周囲から遮断された業務環境、快適なデスクとオフィスレイアウト、リフレッシュコーナー(最初はGoogleレベルではなかっただろうが)、自由な勤務時間、自由に選べる作業デバイスなどが業務上必要な水準を遥かに超えて提供されただろう。
総じて、この会社の経営陣の事業への関与度合いとして、プロダクト作り、顧客開拓、マーケティングについては(外部から知りうる限り)非常に限定されている。代わりに、トップ営業、有効で訴求力の高い著名人とのコネクション形成、そして採用・育成・評価を中心とした極めて洗練された組織構築にほとんどの時間を費やしているようだ。ホールディングスとして黒字化の見込みは立っていないものの、過去数期に渡って前年比倍以上の成長を続けており、株価は依然として高い値を保っている。最近では大手事業会社やプロフェッショナル・ファームの優秀な若手も大量に流れ込み始めているようだ。
(私家版)成功するスタートアップの特徴
スタートアップとは、一言でいうなら、創業から2年~10年以内にホッケースティック型の急成長を遂げる会社のことだ。
その認識のもと、世の中にあまたあるスタートアップを効率的にスクリーニングするならば、まずはビジネスモデルと戦略を見るべきだ(昨今の資本市場環境では、調達額による判断は頼りない)。費用と収益が比例する労働集約型のビジネスモデルではなく、初期投資の何倍もの回収が可能な資本集約型のビジネスモデルを志向する企業が望ましい。
ホッケースティック型で資本集約型の急成長するビジネスモデルは、おおよそ以下のいくつかまたは全ての特徴を有することが多いようだ。
・競争環境が固まっていない市場を対象とする
→現時点で競合がいないか、独占・寡占するプレイヤーがいない業界
・プラットフォーム型の製品である
→顧客またはデータなどの重要リソース先制がKSFとなる
→いわゆるデコンストラクションや、アンバンドリングのフレームワークで理解できる
戦略を達成し、つまりホッケースティック型の曲線を描いて資本集約型のビジネスモデルを構築しきった企業は、スタートアップを卒業してメガベンチャー(何だこの言葉)となった企業だ。
そういった企業は、成熟したプロの人材、つまりカオスを生み出し創造するのではなく、混乱をマネージできる人を求めるようになる。
もちろん、ビジネスモデルと戦略は必要条件でしかなく、その実行においてヒト、つまり創業メンバーの性質が十分条件にならざるをえない。結局のところスタートアップが世界を変えるのに巨額の投資や既存のチャネルは必須ではないわけだし、製品も誰でも真似できるものだから、成功確度については、事業を実行していくヒトで見るしかない。僕の洞察によると、成功するスタートアップの創業者(+主要メンバー)は合理的で、アウトサイダー的で、子どもじみた行動を取る傾向がある。(もちろん、成功しない詐欺師にも共通する点に留意。)
具体的なシグナルとしては、以下の特徴が有用だ。